インタビュー「自分が貼りたいと思うものを形にしているんだ」-NLXL-

2011年、壁紙業界に衝撃をもたらした壁紙コレクション〈SCRAPWOOD WALLPAPER BY PIET HEIN EEK〉から壁紙デザインの新境地を切り拓いてきた《NLXL》。創業者の1人であるリックに、壁紙のことや《NLXL》誕生のエピソードについて聞いてみました。

ー リックにとって壁紙の魅力って?

壁紙はインテリアの雰囲気の要となるもの。
《NLXL》の壁紙を背景にしてイケてないソファを置いたらその空間はよく見えると思うけど、逆にどんなに美しいソファを置いても背景がまずかったら台無しになるよね。

ー では、ご自宅にはもちろん壁紙が?

もちろん!今はキッチンに〈WOOD PANEL MAHOGANY BY MR & MRS VINTAGE/MRV-29〉、天井の高いリビングには〈ARCHIVES WALLPAPER BY Studio Job〉のコレクションを貼っているよ。この壁紙は、宮殿のように広々としたリビングに遊び心を加えているんだ。近い将来〈RIJKSMUSEUM WALLPAPER PRESENTED BY PIET HEIN EEK/RKS-01〉に貼り替えるつもりだよ。なぜこれを選ぶのかって?それは至ってシンプル。僕らの壁紙は、自分が自宅に貼りたいものをデザインしているからさ!

Photo:Valentino Sommariva・Production/Styling:Alice Ida

リックが住む自宅のリビングルーム。正面の壁、左右に貼られているカラフルな壁紙はどちらも〈ARCHIVES WALLPAPER BY Studio Job〉。左がネイティブアメリカンをモチーフにした(JOB-05)、右はドイツの歴史をアイコン化して並べた(JOB-04)。

リックが『Mr&Mrs Vintage』名義でデザインしたウッドパネルのデザイン。(MRV-29

オランダの画家ヘンドリック・フォークトが描いたローマの庭園を再現したミューラル(壁画)デザイン。(RKS-01

ー 《NLXL》ができたきっかけは?

妻のエスタが僕よりも先にアイデアを思いついたんだ。「古木の壁紙を作ったらどうかしら」って。
グラフィックデザインの分野で働いていた僕にとって、これはそんなに難しいことじゃなかった。僕は木の板をスキャンして印刷にかけてみた。その試し刷りの出来が良くて衝撃を受けたんだ。すぐさまデジタル印刷ができる印刷会社を探しに出かけたくらいさ。完成した壁紙を無我夢中で家に貼ったよ。これが僕の初めてのDIYだった。
このとき、「古木をデザインするなら彼しかいない」と思った。そう、廃材デザインの先駆者で、オランダを代表する家具デザイナーのピート・ヘイン・イークだよ。もともと僕はピートの大ファンでね。すぐに彼に連絡を取ってオフィスを訪ねることになった。ピートは印刷したロール状の壁紙を見るととても興奮して、すぐにこのコラボレーションが決まったんだ。これが、壁紙ブランド《NLXL》、そして《NLXL》初の壁紙コレクション〈SCRAPWOOD WALLPAPER BY PIET HEIN EEK〉誕生の物語さ。

ー 《NLXL》で最も人気のあるデザインは何ですか?

今はなんと言っても〈CANE WEBBING WALLPAPER〉だよ。初期のコレクション〈SCRAPWOOD WALLPAPER〉や〈BROOKLYN TINS WALLPAPER〉、〈CONCRETE WALLPAPER〉はもう定番化している。国によって人気の差は特に無いね。

〈CANE WEBBING WALLPAPER〉コレクションの1つ。(VOS-04

〈BROOKLYN TINS WALLPAPER〉コレクションの1つ。(TIN-01

〈CONCRETE WALLPAPER〉コレクションの1つ。(CON-03

ー 壁紙デザインはどのくらいでできるもの?

2ヶ月くらいかかるものもあるけれど、5分で完成する最高のデザインもあるよ!もちろん、「クオリティ」「ライフスタイル」「オリジナリティ」を保ちながらね。

ー パッケージが何度も変わっていますが、何かこだわりが?

素敵な箱も含めてブランディングしようと思ったんだ。最初は8つのパターンを作っていたんだけど、デザイン数が増加して管理面からパッケージを統一する必要性が出てきた。次は環境保護の観点から、100%リサイクルできる素材への変更を考えているよ。

ー 《NLXL》の前はどんな経験を?

学生の頃は勉強が好きではなかったんだ。15歳の時DJになって、ショップやバー向けのミュージックカセットを提供する小さな会社をスタートさせた。ファッションショーや広告制作も自分でやったよ。デザイナーとして活動し始めたのは17歳から。いろんなデザイン会社で働いて、24歳でグラフィックデザイン事務所を立ち上げたんだ。僕はデザイナーであると同時に起業家でもあったけれど、新しいことが好きでいくつもの会社を作ったよ。30代の頃はニューヨークでの出版会社に始まり、飲食店、ナイトクラブなどなど。そして42歳の時、50人の従業員を抱えながらも利益のあまり得られない事業に満足できず、ここで人生を大きく変えようと決断した。事業そのものではなく、そのプロセスにフォーカスできる会社を設立したくなったんだ。

ー 感銘を受けた本や愛読書は何ですか?

『The 4-hour workweek(著:Timothy Ferriss)』が最高だったよ。「仕事と人生は切り離されたものではなく、有意義な人生の一部として仕事がある」。この本を見て、やっと僕と同じ価値観を持つ人に出会えたと思ったんだ。

ー 尊敬している人はいますか?

僕が影響を受けた人物は3人いるんだ。そのうち2人は面識がないけれど、1人は僕の最初のボスだよ。
まずは、若い頃に興味を持ったレイモンド・ローウィ(*1)。「ある2つの製品の機能も価格も同等だった場合、ビジュアルが良い方が売れる」という彼の格言を僕はいつも胸に刻んでいる。誰もが一度は彼のデザインを目にしたことがあるはずだよ。2人目は、フィリップ・スタルク(*2)。同じく若い頃に彼の作品と出会ったんだ。彼は建築やインテリア、家具に食器、出版物までさまざまな分野を総合的に手掛けるデザイナーで、デザインはユーモアで埋め尽くせることを教えてくれた。
最後の3人目は僕の最初のボス、アロク・チョイだ。スタイルを見る目があるアートディレクターで、たくさんの基本的なデザインのルールを教えてくれた。その一方で商才は無かったんだけどね。その両方の視点が勉強になって、今でも本当に感謝している。それから36年経った今でも交流の続く、良き友人だよ。

(*1) フランス出身のインダストリアルデザイナー。主にアメリカで活動し、「口紅から機関車まで」というキャッチフレーズで20世紀半ばのデザイン界を牽引した。
(*2) フランスの建築家、デザイナー。日本では、東京・浅草にあるアサヒビールのスーパードライホールと屋上の巨大なオブジェ『フラムドール』が有名。

ー 趣味を教えてください。

音楽やプログラミング、あとはテニスもするね。
2人の娘たちとボードゲームをする時間や、愛犬との散歩中に知らない通りを発見したりするのも大好き。
特に、音楽は僕の人生。幅広く何でも聞くよ。朝目覚めて朝食を欲するのと同じように、僕の頭は音楽を求めるんだ。聞きたい音楽のジャンルには波があって、最近はイタリアのオペラやオリエンタルミュージックをよく聞いているかな。でも、マイルス・デイヴィスやディアンジェロ(特にアルバム『VOODOO』!)、ジョン・メイヤーあたりは、波なんて関係なく常に流しているよ。車やバイクでのドライブには、ノトーリアス・B.I.G.といったヒップホップが定番かな!

ー たくさんの質問に答えてくれてありがとう、リック! 最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします!

日本人は謙虚で、繊細で、とてもフレンドリーな人たちだ。僕らのパートナー『WALPA』が《NLXL》のデザインを日本に広めてくれることを誇りに思っている。日本を訪れる日が待ち遠しいよ。Arigato!

Special Thanks to

Rick Vintage

リック・ヴィンテージ

《NLXL》のクリエイティブディレクター。日本びいきで「山崎」のウイスキーがお気に入り。『WALPA』の代表とはファーストネームで呼び合う仲。