和名は「籐(とう)」、懐かしさと新鮮さのある素材。
「サステナビリティ」という価値観
近年のインテリアトレンドを語るうえで、絶対に外すことのできないキーワードがあります。それは「環境への配慮」。
毎年1月に開催されるインテリアの見本市、ドイツの『ハイムテキスタイル』とフランスの『メゾン・エ・オブジェ・パリ』。関連業界から大きな注目を浴びるこれらのイベント会場には、今年「PVC FREE(ビニール不使用)」の文字が数多く並びました。日本ではレジ袋の有料化が始まったばかりですが、世界のインテリア市場では環境に対する意識の高まりがより加速し、コットンやコルクなど自然素材を使った壁紙がもはやスタンダードとなりつつあります。物質的な面だけに留まらず、ボタニカルやアフリカンなど自然をテーマにしたデザイントレンドもこの大きな流れの一部と言えるでしょう。
消費しては捨て、また新たに作ることを繰り返してきた歴史が今、サステナビリティ、つまりは「社会や文化、自然環境をこの先も持続可能な状態にする」という価値観を軸に、1つの転換期を迎えています。モノを作り出すあらゆる分野において、強く意識されるべきテーマとなっているのです。
環境にやさしい素材「ラタン」
そんな中、価値を見直されている存在の1つに、ラタン家具があります。ラタンという言葉に聞き覚えがない人も「籐(とう)」といえばピンとくるのではないでしょうか。
竹のような見た目に和の雰囲気を感じるかもしれませんが、実は東南アジアなど亜熱帯を中心に自生する植物です。しなやかで軽く、丈夫な特徴から世界各地で家具の素材として利用され、特に中世期以降のヨーロッパを舞台に大きく発展します。明治に入りその製造技術が日本へと伝えられ、同時期に欧米からもたらされた椅子文化とともに定着していきました。籐製の家具にどこかレトロな印象を持つのは、ほんの数十年前まで日本の家庭で見られたイメージが残っているからでしょう。
高度経済成長期以降、安価な輸入家具に押され、籐家具はその製造技術とともに衰退の一途をたどります。しかし今再び、木材よりも成長が早く環境にやさしい素材として熱い視線を浴びているのです。
冒頭で触れた見本市『メゾン・エ・オブジェ・パリ』の出展ブースでは、ラタン製のアイテムを使ったコーディネートが多く見られました。曲線の美しい椅子や、やわらかな光をもらす照明シェードの織り成す空間は、懐かしさとともにある種の新鮮さを感じさせてくれます。
フェイクデザインの新境地「ラタン」
このトレンドをいち早く壁紙デザインとして取り入れたのが、オランダの壁紙ブランド《NLXL》から発表された〈CANE WEBBING WALLPAPER BY RODERICK VOS & MRMRS VINTAGE〉です。
2019年、《NLXL》から「籐編み」の意味を持つ「Cane Webbing」を主体としたコレクションが発表されました。同年の末には日本でもリリース。古くからなじみある素材のデザインということもあり、日本での人気も徐々に高まっています。
ちなみに、籐の英名は「Rattan」。籐製の家具はラタン家具とも言われますが、「籐編み」は特に樹皮の部分=「Cane」が使われることから「Cane Webbing」と呼ばれます。
〈CANE WEBBING WALLPAPER BY RODERICK VOS & MRMRS VINTAGE〉。何とも長い名前ですが、《NLXL》のコレクション名の最後には必ずタイアップしたデザイナーの名が刻まれます。このコレクションは2組のデザイナーによって作られました。その趣の異なる2つのデザインについて話しましょう。
ロデリック・ヴォスのデザイン
〈CANE WEBBING WALLPAPER〉のデザイン構想は2018年、《NLXL》のクリエイティブディレクター、リック・ヴィンテージにより火蓋を切られました。時を同じく進行していた「ウッドパネルのデザインと組み合わせては?」という彼自身の着想の先を描いたデザイナーが、ロデリック・ヴォスです。過去にも《NLXL》の商品デザインを手掛けていたロデリックは、この2つの素材の試作モデルを見た数週間後には〈ANGLE WEBBING〉のスケッチを仕上げ、リックを驚かせます。下の3つの画像はすべてロデリックのデザイン。籐編みを主体にモダンなスタイルを含ませた、滑らかな曲線の際立つラインアップです。
Mr & Mrs Vintageのデザイン
一方のリックと《NLXL》CEOのエスタ・ヴラクからなる『Mr & Mrs Vintage』の2人は、ウッドパネルを主体に、木目の存在感が活きるデザインを描きました。木目とラタンをバランスよく組み合わせつつ、ロデリックのデザインとは対照的に直線のラインが際立ちます。
2つのデザインの共通点
互いに共通している点としては、「縁取り」の活かし方。この縁取りが、単調なデザインとして完結してしまいそうな籐編みのデザインを、より立体的でリアルな存在へと導いているのでしょう。
こうして自然素材のやさしい質感が活きる、美しいコレクションが完成しました。《NLXL》の壁紙としては珍しく、1つのデザインに複数のカラーバリエーションがあるのも特徴です。 ラタンという素材にスポットをあて、かつ他の素材を融合させた、フェイクデザインの新境地と言えるでしょう。