壁紙と健康

もしかしたら、その片頭痛の原因は
真っ白な壁紙かもしれない

ここに一つの興味深い事例があります。ある男性が長年、慢性的な片頭痛に悩まされてきました。その不調がなぜか、引っ越しを機に改善したというのです。引っ越しの前と後で何が大きく変化したのかというと……居住空間の「壁の色」と「照明環境」。引っ越しを境に体調が大きく変化したことで、それまでの不調の原因がどうやら生活環境にあったということが判明したのです。こちらの事例を紹介してくれたのは、日本インテリア健康学協会の代表理事を務め、インテリアデザイナーとしても活躍する尾田恵さんです。尾田さんによると、インテリアと健康には大きな因果関係があるといいます。

「引っ越し前のインテリアは全体的に白を基調としたものでした。引っ越し後は壁やソファといった部屋の大きな面積を占める要素がブラウン系の色味、つまり光の反射を抑える配色へと変化しました。この男性の不調の原因は、おそらく光の刺激によるものだったのではないかと思います。あまり知られていませんが、実は片頭痛の方の半数ほどに、光が原因となり症状が悪化する『光過敏』があるといわれています。照明の光は、内装材、つまりインテリアを介して私たちの体に影響を及ぼします。引っ越し前のインテリアに多く使われていた『白』は、あらゆる色の中で最も光を反射する色です。また、照明の色も片頭痛に関係するということが分かってきています。空間の色が変わったこと、照明環境が変わったことが相互に作用し、光の刺激が和らいだことが症状の改善につながったと予想されます」

まさか、普段過ごす部屋が健康に影響しているなんて思いも寄らないのではないでしょうか。尾田さんは「インテリア」と「健康」の関係について「Active Care(アクティブ・ケア)」という新メソッドを提唱しています。今回、これまであまり知られてこなかったインテリア健康学「アクティブ・ケア」について詳しく教えていただきました。男性の不調の原因となっていた日本の住宅に多い「白い壁」の謎や、空間に存在する「刺激」を抑えた部屋のコーディネート例もご紹介します。

なぜ日本には「白い壁」が多いのか

およそ「99%」。この数字は日本の住宅における「白い壁」の割合です。白い壁は「明るい」「広く見える」「落ち着く」と言われると、ほとんどの人が疑うことなくうなずくでしょう。戦後の住宅建設ラッシュの頃に白いビニール壁紙が普及し、いつしか日本住宅のスタンダードとなりました。そもそもなぜ「白い壁」はこんなにも広く日本の住宅へ普及したのでしょうか。その理由は大きく二つ予想されます。

一つ目は、住宅提供側の事情。日本の賃貸物件や建売の分譲物件は、そこに住む人ではなく提供主が内装材を選ぶケースが多く存在します。「白」には汚れが目立ちやすいといった分かりやすいデメリットがありますが、単純に「無難な色」として重宝されたと考えられます。内装を自分で変えるという発想の少ない日本では、内見時の印象を損なわないことは提供主にとって重要な要素でした。無難で価格も安く施工も楽、そんな国産の白いビニール壁紙は提供主にとっても施工する職人にとっても絶対的なメリットがあったのです。そして白い内装が増えれば増えるほど「白い壁紙がシンプルでいい」や「とりあえず白い壁紙で」といった感覚が浸透していったのかもしれません。
二つ目は、日本に四季が存在することが考えられます。インテリアにおける壁紙史の第一人者である本田榮二さんの著書「ビジュアル解説 インテリアの歴史(発行:秀和システム)」によると、四季が巡り自然界が鮮やかな色彩にあふれる地域においてはインテリアがシンプルになる傾向があるとされています。実際に、日本には古くから漆喰や土壁といった無地の壁が多く、こういったシンプルな内装環境に慣れ親しんできました。逆に自然界が無彩色の環境、また年中同じ気候で色彩の変化に乏しい地域においてはインテリアが鮮やかになるといわれています。四季の存在しないアフリカや東南アジアの鮮やかなインテリア小物などがこの具体例です。

二つ目は、日本に四季が存在することが考えられます。インテリアにおける壁紙史の第一人者である本田榮二さんの著書「ビジュアル解説 インテリアの歴史(発行:秀和システム)」によると、四季が巡り自然界が鮮やかな色彩にあふれる地域においてはインテリアがシンプルになる傾向があるとされています。実際に、日本には古くから漆喰や土壁といった無地の壁が多く、こういったシンプルな内装環境に慣れ親しんできました。逆に自然界が無彩色の環境、また年中同じ気候で色彩の変化に乏しい地域においてはインテリアが鮮やかになるといわれています。四季の存在しないアフリカや東南アジアの鮮やかなインテリア小物などがこの具体例です。
このような理由を背景に「白い壁」は日本で揺るぎないスタンダードの座を確立していきました。白い壁の中で育った私たちの多くは、それに疑問を持つこともなければ、壁が白いことを意識することすらないと思います。そして「白い壁は落ち着く」と納得するのです。