インタビュー「私たちの壁紙は生き生きとしたストーリーを持っている」-MINDTHEGAP-

世界の文化にインスピレーションを受けた民族的なモチーフ、ポップでユニークなパターン、ボタニカル柄やヴィンテージ感のある花柄など、デザインカテゴリの幅広さと多彩な色使いで、細部にまでこだわったデザインクオリティが特徴的なルーマニアの壁紙ブランド《MINDTHEGAP》。
創業者の1人でありクリエイティブマネージャーでもある、ステファン・オルメニサンにインタビューを投げかけると、快く答えてくれました。

2019年に発表された〈WALLPAPER COLLECTABLES〉からフラワーデザインを集めたイメージ写真。

ー 《MINDTHEGAP》を立ち上げたきっかけを教えてください。

ジャーナリズムの学位を持っていたので、ルーマニアの全国紙の新聞記者として8年ほど働いていました。起業したのは2009年。ビジネスパートナーのヴィクター・セルバンとともに小さな会社を立ち上げます。当時はウォールアートのデザインと製造を手掛け、さまざまな形の商品を印刷後にすべて額装しアートパネルとして販売していました。数年に渡りこのようなことを続けながら、多くの世界的なブランドから製造委託を受け商品を提供していました。こういったブランドは私たちの技術や能力を使い高品質な商品を世に送り出していましたが、それが実はルーマニアで作られていたことなど誰も知らなかったのです。だから2016年に、事業を前進させるために独自のブランドを打ち出すことを決めました。これが《MINDTHEGAP》誕生の起源です。
《MINDTHEGAP》の最初のオリジナル製品が壁紙でした。壁紙製造の分野は、まだやるべきことが残されているニッチな市場。ストーリーのある壁紙を作ることが市場全体の変革に繋がると信じていたし、間違いなく《MINDTHEGAP》は、壁紙に変革を起こした先駆けブランドの1つだと思っています。新時代のウォールアートとして、ミューラル(壁画)と伝統的な壁紙を混合した新たなアプローチにより、壁紙という概念を超えるものを創り出しています。非常にクリエイティブな社内のアーティストたちが、芸術品を素晴らしい壁紙へと生まれ変わらせているのです。

ー 幅広いデザインがありますが、多くのデザイナーが在籍しているのですか?

《MINDTHEGAP》にはとてもクリエイティブなデザイナーが数名います。彼らに私がインスピレーションを得たテーマを伝え、そのシーズンの制作が始まります。

ー 《MINDTHEGAP》のコレクションはステファンのインスピレーションから始まるんですね!
どこからそのインスピレーションを得ているのですか?

とても幻想的で膨大な、人類の文化遺産。 これが私のインスピレーションの主な源です。

2017年に発表されたコレクションの1つ〈Eclectic〉のイメージ写真。

ー ステファンの目に、日本はどのように映っていますか?

これまで訪れた国の中で最も美しく興味深い国の1つだと思います。 大阪と東京に一度ずつしか訪れたことがありませんが、実に素晴らしかったです。一緒に巡ったビジネスパートナーのヴィクター・セルバンも、日本に同じ印象を持ったようでした。 しばらく日本に住み、この国の文化の真髄や考え方に触れ新たなインスピレーションを見つけたいとさえ思っています。日本は他のアジア諸国と比べてもあらゆる面において異彩を放ち、良い意味で完全に異なるということに気付き、感銘を受けました。

ー 嬉しいお言葉、ありがとうございます!
日本にはまだ白い壁が多いのですが、いざ壁紙を選ぶときのアドバイスをお願いします!

自分の個性を明確にしてくれるデザインを見つけてほしいですね。 自分自身を理解し、何に対して情熱や興味を持っているのかを知ることで、自分にとって最良のデザインを見つけることができると思います。
私たちの壁紙は生き生きとしたストーリーを持っているので、あなたが毎日家で何を見て、何を感じたいのかを知る必要があります。《MINDTHEGAP》の壁紙やインテリア用品はそれぞれ異なるライフスタイルを物語り、その根源を再現しようとします。つまり良い壁紙とは、あなたが誰で、あなたの情熱とは何かを語りかけてくるべきものなのです。

ー ステファンにとって、壁紙の魅力とは何ですか?

私は独自の物語を紡ぎ出す壁紙を見るのが大好きです。アンティークの壁紙も好きですね。特にイギリスの伝統的なデザインは、今この現代においても素晴らしく美しい。ミューラル(壁画)壁紙も大好きです。フランスの王室はこれによって緻密な描写で装飾されていました。 壁紙は昔からインテリアの一部であり、もはや壁紙のない家を「我が家」と呼ぶことはできないと私は思っています。

ー では、ご自宅にはもちろん壁紙が?

もちろんです。以前は年に一度壁紙を貼り替えていました。現在は、リビングルームには〈THE ORIENTAL TALE/WP20470〉を、寝室への階段には〈SHIBUI Copper/WP20347〉を、 そしてメインベッドルームには〈AIZOME COLLAGE/WP20506〉を取り入れています。どれも素晴らしい壁紙です。これらはすべて、アンティークの屏風や藍染など、日本からインスピレーションを得てデザインした壁紙なんですよ。

ステファンの自宅のリビングルームの写真。壁には中国や日本の古い屏風からインスピレーションを受けたアジアンスタイルの壁紙〈THE ORIENTAL TALE/WP20470〉が貼られ、クッションや置き物もエキゾチックな雰囲気で統一されている。

ステファンの自宅の寝室。藍染にインスパイアされた〈AIZOME COLLAGE/WP20506〉の重厚な色味が深い眠りを誘ってくれそう。

ステファンのダイニングルームに貼られている〈DELFTWARE/WP20187〉。デルフト・ブルーとも言われる、オランダを象徴する深みのある青で描かれた絵付け皿が一面にデザインされた壁紙。

ー 子どもの頃はどうでしたか?

私はルーマニアの共産主義の時代に育ち、当時は華やかな西ヨーロッパの商品やライフスタイルといった文化の流入が制限されていました。父母と子ども2人で小さなアパートに住む一般的な家庭で、壁紙は貼られていませんでした。 私はデザイナーではありませんが、良い嗜好を持ち、美的感覚の優れた人間だと思っています。 若い頃から、家の中でアート写真集や本のページをひたすらめくっていたことを思い出します。

ー 《MINDTHEGAP》の施工写真はクオリティが高く、
とても素晴らしいものばかりですが、誰がインテリアをスタイリングしているのですか?

コーディネートはいまだに私が行っています。 仮に本望ではなかったとしても、私がやるべき仕事だと思っています。各コレクションのストーリーの根幹を把握しているのは私自身なので、その世界感を表現できるのは私しかいないでしょう?もちろん1人で行うのではなく、チームで連携を取っています。現在、会社には2人のカメラマンがおり、1人はアートディレクターのような役割で小道具のスタイリングや調達を手伝ってくれていますが、最終的にインテリアやライフスタイルを組み立て、全体をアレンジするのは私です。

ー 《MINDTHEGAP》を一言で表すなら?
ブランド名の由来は何ですか?

一言で表すなら、「ICONIC(象徴的)」かな。ブランド名の由来は「ギャップを乗り越える」です。

ー 《MINDTHEGAP》で最も人気のあるデザインは何ですか?
また、国によってその傾向に違いはありますか?

世界全体的に人気の高いデザインは〈INDIGO MARVEL/WP20154〉や〈OCEANIA/WP20304〉、〈BYOBU Metallic edition/WP20295〉など。そしてトロピカルデザイン全般もロングセラーです。
エリア別の傾向だと、アメリカではルネサンス様式のクラシックな欧風デザインがよく売れます。逆にヨーロッパでは、イギリスを除き、そういった欧風デザインはあまり重宝されません。アジアの動向も独特です。アジア諸国やインドにインスパイアされたデザインが、その起源となった国々でも人気を得ています。日本では〈JAPANESE GARDEN/WP20342〉や〈BYOBU Metallic edition/WP20295〉が高く評価されており、大変うれしく思っています。

ー 趣味は何ですか?

音楽を聞いたり、演奏したりすることです。音楽は私の作品と強い繋がりがあります。 元々ミュージシャンをしていたこともあり、時間があれば世界中を旅して集めた楽器を嗜んでいます。世界中の音楽に触れると、行ったことのない場所や時代への想像力が駆り立てられ、旅することができます。リラックスしたいときには家で料理を作ります。世界中の素晴らしい料理を再現するのが大好きです。 インド料理、タイ料理、そして高度な技術と特別な具材を必要とする、味わい深い日本料理も大好きです。 もちろん、妻や子どもと楽しい時間を過ごしたり一緒に旅行したりして、美しい世界を見つけるのも大好きです。

ー 愛読書を教えてください。

私の愛読書は旅行、デザイン、人類学、哲学に関するものがほとんどです。1種類に限定するのは難しいですが、世界中にある古来からの財産を再発見できる本を好み、《MINDTHEGAP》のインスピレーションの源にしています。古代の文化や失われた部族、世界のさまざまな地域の人々、例えば、北米の部族やパプアニューギニアの民族、南太平洋のマオリ族、アフリカのズールー族、バミレケ族、そして、私が多くのインスパイアを受けている日本独自の文化にも魅了されています。

ー 尊敬している人は?

必ずしも有名人ではなく、日常で出会った人々が尊敬の対象となります。 もちろん、世界を変えた著名な人々の影響も受けています。 その中でも、あらゆる面においてインスピレーションを与えてくれる人物、ラルフ・ローレンについて触れたいと思います。彼自身のこと、また彼の素晴らしい服やデザインを生み出すユニークなアプローチについて深く知るようになってまだ数年しか経たないのが不思議なくらいなのですが、彼と私の間には間違いなく多くの類似点が存在しています。私たちはともに、世界中で使われ時代を越えてきたデザインや商品、驚くほど古いアイテムを、新たな作品として仕立て直していくことに価値を置いているのです。

ー ステファン、たくさんの質問に答えてくれてありがとう!
最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします!

日本での《MINDTHEGAP》の人気を心から誇りに思います。
人生は一度きり。方法を問わず、あなたのライフスタイルを彩り続けてほしい。勇気を持って、自分らしく生きることをためらわないで。 ARIGATOU GOZAIMASU!!

Special Thanks to

Stefan ORMENISAN

ステファン・オルメニサン

ルーマニアの壁紙ブランド《MINDTHEGAP》の創業者、兼クリエイティブマネージャー。とても誠実で真面目な人柄が今回のインタビューからもうかがえる。