NLXL|オランダ
2011年にデビューした壁紙コレクション〈SCRAPWOOD WALLPAPER BY PIET HEIN EEK〉は、かつてないデザインクオリティで壁紙業界に衝撃をもたらしました。思わず触りたくなるリアルな木目はフェイクの域を超えたとも評され、北米最大のインテリア見本市『ICFF』で、最も優れたアイテムに贈られるエディターズ賞(壁紙部門)を獲得します。当時のニューヨークタイムズで取り上げられたことも話題となり、世界的に大きな注目を浴びました。
このコレクションの制作を手掛けたのがオランダの壁紙ブランド《NLXL》です。仕掛け人は《NLXL》の創業者でありクリエイティブディレクターを務めるリック・ヴィンテージと、彼のパートナーでCEOのエスタ・ヴラク。彼らのアイデアと、オランダの家具デザイナー、ピート・ヘイン・イークの感性が見事に交わり、壁紙デザインの新境地が切り拓かれました。
そして、この壁紙の最大の特徴と言えるのが、デジタル印刷を用いた柄リピートのないデザインだったという点。つまり、およそ10mある壁紙1ロールの中に同じ柄が一度しか登場しないのです。これはフェイクデザインの定説を覆す衝撃的なものでした。以降、これまで発表された《NLXL》の壁紙ほとんどに共通する彼らの代名詞的な特徴となっています。
このコレクションが成功を収めた後、ビジネスをさらに広げるために国際的なパートナーを募ります。日本で名乗りを上げた大手企業を含む4社の中で選ばれたのが、当時まだオープン準備のさなかにあった、輸入壁紙専門店『WALPA』です。
「僕たちもオランダで最小の壁紙会社だったから、日本で最小の企業と手を組むことにしたんだ。底力があって大企業より一生懸命だと考えたから。その決断は間違っていなかったよ。 僕らにとって海外初の販売代理店となった『WALPA』は、最高の取引先となり、また良き友人となったんだ。」
「オランダ(NetherLands)」で「XL」サイズの企業、すなわち「小さな巨人」という想いを込めたブランド名の由来通り、今や業界で誰もが知るブランドへと成長しました。《NLXL》のもう1つの大きな特徴が、これまでに出した18の壁紙コレクションのほとんどをデザイナーとのタイアップによって生み出している点です。
「僕らが一番大切にしているのは、出会い。同じ分野で活動する人と話すのは本当に楽しいよ。もちろん誰でもいいというわけではない。コラボレーションできる可能性の高い、感銘を受けたデザイナーにアプローチをしていくんだ。でもいくらデザインが良くても、価値観が合わないと仕事はしないね。僕は美味しい料理とワインが大好きだから、そんな時間を楽しく共有できる人と手を組みたいと思っているんだ。」
そう話す陽気なリック。彼のSNSに投稿されるパーティの様子には、ともにコレクションを出したデザイナーたちの顔ぶれが並ぶことがあります。豊かな時間を共有できるからこそ、素晴らしいクオリティの壁紙を生み出せるのでしょう。どのコレクションも、個性的で新たな切り口を持った世界観が際立ちます。自らが楽しむことを追求する《NLXL》は、そういった意味でエンターテインメント性の高いブランドと言えます。
《NLXL》壁紙コレクションストーリー
〈SCRAPWOOD WALLPAPER BY PIET HEIN EEK〉から始まった《NLXL》。現在までに出された18の壁紙コレクションから3つのストーリーをご紹介しましょう。
1つ目は、〈REMIXED WALLPAPER BY ARTHUR SLENK〉。あたたかみのある紙の色や質感を生かしてコラージュされたデザインは、古い「しみ」など、かつて使っていた人の痕跡が残る古い楽譜を元に生み出されたもの。リックが会社の移転のために大掃除をしていた際、ヴィンテージの楽譜でコラージュ作品を制作しているデザイナー、アーサー・スレンクの本を見つけた出来事が縁となりました。過去のインタビューでリックが「最も美しい」と評したコレクションでもあります。
2つ目は〈PRINTED RULERS WALLPAPER〉。ヴィンテージ定規がそれぞれ異なるサイズでデザインされた(MRV-05/Small)と(MRV-06/Large)。これは《NLXL》の創業者、リック・ヴィンテージとエスタ・ヴラクが『Mr & Mrs Vintage』名義でリリースしたデザインの1つです。リックが昔フリーマーケットで集めていた「使い道のないもの」の中から、何本かの古びた定規を見つけた時にアイデアを閃いたのだそう。定規の1枚には、まるで元から刻まれていたロゴのように彼らの娘2人の名がデザインされています。味わい深い雰囲気を持つ、日本でも人気の高いデザインの1つです。
3つ目は〈ARCHIVES WALLPAPER BY Studio Job〉。ベルギー生まれのヨブ・スミーツ、オランダ生まれのニンケ・テュナゲルによるクリエイターチームと創り上げたコレクションです。きっかけは、2013年にパリで話題となった〈VIKTOR&ROLF〉のファッションショーを彩った舞台装飾。ランウェイを飾る「しなびた花のデザイン」の虜になったリックは、彼らと壁紙を作れないかと考え、数回の話し合いの末に契約に至ります。このときの「しなびた花」のデザインが〈Withered Flowers/JOB-06〉の元となりました。彼らが考えた50種類にも及ぶ原案の中から6パターンを厳選。その内の1つ〈Withered Flowers〉は、従来のモノクロに加え、ウィリアム・モリスを思わせる重厚な色使いの(JOB-07)を生み出し、全7種類を1つのコレクションとしてまとめます。コレクション内のどの柄もほぼシンメトリーなデザインに仕上げられています。