モダン・インテリアに最適、無機質でクールな素材。
コンクリートの洗練されたイメージ
数あるフェイクデザインの壁紙の中でも、生活空間に取り入れるという前提において、特にそのメリットが活きるのがコンクリートデザインではないかと思います。建造物の構造体であるコンクリートがむき出しの、いわゆる「打ちっぱなし」と呼ばれる仕上げは、建築家・安藤忠雄氏の手掛けた作品などでよく知られています。こういった現代建築における洗練されたイメージが、コンクリートデザインをモダンでスタイリッシュなものへと定着させたのでしょう。
壁紙が可能にした憧れの内装
一般住宅で打ちっぱなしと言えば、デザイナーズ物件を思い浮かべる人が多いかもしれません。意匠性の高さが魅力的である一方、機能面で言うといくつかのデメリットが挙げられます。外気の影響を受けやすいため光熱費がかさみ、吸水性が高くカビが発生しやすいのです。構造体としては言うまでもなく頑丈ですが、木造と比べコストがかかることもあり、誰もが気軽に取り入れられる内装デザインではありません。このように難点のある素材であればあるほど、壁紙で取り入れることに多くのメリットが生まれます。
近年は国産壁紙でも輸入壁紙でも多種多様なデザインが展開され、その表情は実にさまざま。定番のグレーだけでなく、ベージュやホワイト、ヴィンテージ感を出したもの…無骨でありながらラグジュアリー。その唯一無二の存在感は可能性に満ち、さらに自由なものへと広がっています。
かつて手の届かなかったインテリアを一般的な住宅で実現可能な存在へと変化させたことは、壁紙の大きな功績の1つと言えます。コンクリートデザインはすでに、誰もが楽しむことのできる身近な存在となっているのです。
一味違う、海外のコンクリートデザイン
「無骨」「モダン」といった表現がぴったりのコンクリートデザインは国産壁紙にも多くの種類がありますが、ここでは一味違う海外の壁紙を取り上げます。
イギリス発の《mineheart》は、デザイナーのブレンダン・ヤングとヴァネッサ・バタグリアによって2010年に創業された壁紙ブランドです。彼らが生み出すデザインには、モノクロの本棚や白いパネルをモチーフとしたシックでクールな印象のものが多くあり、その中でもコンクリートを素材としたデザインは非常にユニーク。その一部を4枚の画像とともに見ていきましょう。
まずは下(画像1)の、ドットデザインのコンクリート壁紙〈Light Urban Concrete Polkadot Wallpaper〉。『Polkadot』とは、大きさによって3つに分類される真ん中サイズの水玉を指す言葉。とは言え、かなり大柄の水玉模様のデザインです。
(画像2)は、ダマスク柄を取り入れた〈Light Urban Concrete Damask Wallpaper〉。エキゾチック、かつエレガントな雰囲気のモチーフですが、コンクリート素材を用いることで少しクールな要素も加えられる印象です。
(画像3)の〈Light Concrete Loveletter Wallpaper〉。そこに並ぶ筆記体は、ただの文字ではなくラブレター。無骨なコンクリートが一気に物語へと化すデザインです。
最後は(画像4)の〈White Tudor Wallpaper〉。「チューダー様式」という言葉をご存知でしょうか?1485年にイギリスでチューダー朝が開かれて以降、17世紀にかけて確立された英国らしい建築や家具のスタイルを指します。柱、梁、筋交いなどの骨組みを外部に露出したその特徴的なデザインが、コンクリートと木で表現されています。
mineheart マインハート |
PEIT BOON|ピート・ブーン
壁紙デザインに隠された物語
「コンクリートはお気に入りの素材。」
そう話すのは、オランダのデザイナー、ピート・ブーン。建築からインテリアに至るまで総合的に手掛け、その機能的でラグジュアリーな空間はヨーロッパを中心に世界的にも高く評価されています。そんな彼が《NLXL》のクリエイティブディレクター、リック・ヴィンテージと出会い初めて彼らの壁紙を見た時、クオリティとユニークなアイデア、情熱、そのすべてに感動したと言います。すぐに「リック!僕も壁紙を作りたい!」と伝え、洗練されたコンクリートデザインの〈CONCRETE WALLPAPER BY PIET BOON〉が誕生しました。
改めてリックに〈CONCRETE WALLPAPER BY PIET BOON〉について尋ねてみると、興味深いエピソードを聞くことができました。7品番からなるコンクリートコレクションですが、その中の1つ、下の画像(CON-06)にご注目ください。
他とは明らかに一線を画す様相は、とある建物からインスパイアを受けたものだと言います。
「バイクで街中を走りながら、かっこいいコンクリートの壁を探し回ったんだ。第二次世界大戦中にドイツ軍の中継地点として使われていた僕の街には、たくさんのバンカー(装備や物資、人員などを敵の攻撃から守るための施設)が存在している。中にはコンクリートなのにレンガみたいにペイントされた壁もあってね。これは当時、空から街を撮影した時に軍事施設に見えないようレンガ造りの建物を装って、敵から攻撃されないようにカモフラージュしたものなんだ。この壁を(CON-06)で表現したんだよ。」
改めてこの壁紙を見ると確かに、ところどころレンガの目地を思わせるような線が描かれています。
このように壁紙のデザインには時として、歴史的な物語が隠されているのです。
PIET BOON ピート・ブーン |