インタビュー 「私を取り囲む世界への答えを、絵画やデザインで表現する」 -Louise Body-

ー 2020年、壁紙ビジネスから離れると聞いて驚きました。画家としての活動にフォーカスする決意をしたのはなぜですか?きっかけとなる出来事があれば教えてください。

1990年代の前半に絵画を専攻し学位を取得したのですが、絵に対する情熱は一度も失ったことはありません。当時は絵だけで生計を立てるのが難しく、壁紙やテキスタイルデザインの世界に入ることで生活と創作の両方を維持することができました。
でも今はインターネットやSNSを通じて、以前はギャラリーでしか出会えなかった人々とつながることができます。作品を多くの人に販売する機会が得られ、画家としての活動にフォーカスできるようになりました。

Photo:Tim Cantrell

ー 絵画の制作で表現できて、壁紙でできないこと、またその逆はありますか?二つの仕事にどのような違いを感じていますか?

私は絵画と壁紙に対して完全に異なるアプローチをしています。壁紙のデザインはアイデアを基に制作し、膨大な時間をかけて何種類もの配色や柄のリピートを考えます。一方絵画は、私にとってもっと瞬発的で直感的なものです。壁紙のデザインが商品を作ることであるのに対し、絵を描くことは私を囲む世界を共有する方法であり、より個人的な表現手段だと思っています。

ー 制作している絵画の中で、ミューラル壁紙におすすめの作品はありますか?

私の絵画作品にはミューラル壁紙としても生かせる要素がたくさん含まれていると思います。特に、美しい半透明の色彩を重ねた〈Encompass〉のような、海の風景を描いた抽象画は向いていると思いますね。

〈Encompass〉

ー 公式サイトに〈Plaster pink(*1)〉〈Mineral green(*2)〉が好きで作品によく取り入れると書かれていましたが、どんなところにひかれるのでしょうか?

この2色は海と大地の色。互いを上手く補い合い、調和の取れた温かさを持っています。

(*1)くすみ系ピンクの総称。「Plaster」は「石膏」の意味。
(*2)くすみ系グリーンの総称。「Mineral」は「鉱物」の意味。翡翠のようなくすんだ緑。

Plaster Pink Image

Mineral Green Image

ー その2色の他に好きな配色があれば教えてください。また、色の組み合わせを考えるときに何を重視していますか?

〈PANTONE®7465C〉〈PANTONE®7718C〉〈PANTONE®1765C〉〈PANTONE®701C〉
この4色の組み合わせがお気に入りです。
抑えた色合いをベースに、鮮やかな色で少しアクセントをつけるのが好きですね。一番大切にしているのは色彩、トーン、テクスチャのちょうどいいバランスを生み出すことです。

左から〈PANTONE®7465C〉〈PANTONE®7718C〉〈PANTONE®1765C〉〈PANTONE®701C〉

Photo:Tim Cantrell

ー 色を選ぶ際、独自のデザイン哲学のようなものはありますか?

色を選ぶときはいつも自分の家で使われる様子をイメージするので、実際に自分が使うような色しか使いません。

ー 壁紙のカラーバリエーションを制作するプロセスを教えてください。

デザインが完成してデータ化したら、まずリピート(*)が正しく繰り返されているかどうかを確認します。ミューラルタイプのデザインにはない工程ですね。その後、Photoshopを使って色を変えていきます。ひかれる色はいつも決まっていて、それが家の中でどのように見えるかを熟考します。

(*)同じ柄が一定間隔で繰り返すこと。

Photo:Jesse Wild

ー ご家族は、画家・デザイナーとしてのあなたにどのような影響を与えましたか?

両親や祖父母、叔父、従兄弟までみんなクリエイティブな仕事をしていたので、アーティストになるのはただの娯楽や趣味ではなく、現実的なキャリアの選択肢として常に考えていました。幼い頃から絵画やクリエイティブな家族に囲まれて育ったことが私の創造力の糧になったと思います。

ー 作品を創作する上で、ご家族の作品を意識することや、違いを感じることはありますか?

祖母たちが学んだのはとても伝統的な方法で、私が芸術大学で教えられたものとは異なります。違う時代を生きた私たちの作品は自然と違うものになっていると思います。こんな芸術家になりたいと思ってなれるものではありませんが、自分の声に耳を傾ければきっと唯一無二の表現が生まれてくるはずです。

ー 家族から言われた印象的な言葉はありますか?

具体的な言葉は覚えていませんが、試すことの大切さを教えてくれ、持っている画材の全てを惜しみなく使わせてくれました。祖母のアトリエの匂いは今でもよく覚えています。私のお気に入りの場所でした。

Photo:Tim Cantrell

ー いろいろな壁紙や家具を取り入れ自宅のインテリアを楽しむ様子を過去の記事で拝見しました。アンティークショップが好きで、お買い得ないいアイテムを見つけるのが上手だそうですね。

今住んでいるヘイスティングスという街にはアンティークショップがたくさんあって、よくぶらぶらと見て回っているんです。祖父母から受け継いだアンティーク品もいくつかありますね。
古いものと新しいものを組み合わせて、リラックスできる家庭的な雰囲気をつくるのが好きですね。実用的なもの、美しいもの、もしくはちょっと風変わりなものを選んでいます。

ー 現在はどんな壁紙を貼っていますか?また、家のインテリアはどのような雰囲気になっていますか?

キッチンに私がデザインした〈Paper Tiles/Old Blue〉の壁紙を貼っています。夫と2人の子どもと暮らしているので、生活感であふれています!1905年に建てられた家で、天井が高く特徴的な造りになっているのですが、残念なことにそのいくつかは年月とともに消えてしまいました。

ー 家の中で一番居心地がいい場所はどこですか?

リビングのソファです。

ー リラックスや楽しむために家の中でしていることは何ですか?

ワインを飲んでお風呂に入り、その時お気に入りの映画やドラマを見ることです。

ー 動画配信のグルメ番組に寄せられたイラストデザインを拝見しました。普段から料理を楽しんでいるのでしょうか?

料理はとても好きですね。でも子どもたちと私や夫の分をそれぞれ作らなければいけないので、あまり幅が広がらず少し退屈しているんです。私はもう30年ベジタリアンなので、野菜の料理はかなり独創的に楽しんでいます!

ー 好きな朝ごはんは何ですか?

トーストしたシードやナッツをたっぷり入れたオリジナルのグラノーラを作って、ギリシャヨーグルトや新鮮なフルーツと一緒に食べるのがお気に入りです。

ー 昔よく旅をしていたそうですが、旅はあなたにとってどのようなものですか?

まだ居場所も定まらず、子どものいなかった20代の頃によく旅をしていました。インドに1年、中米に3ヶ月滞在しました。どちらもインターネットや携帯電話が普及する前だったので、とても挑戦しがいのある素晴らしい経験でした!

ー 「Artist support pledge 2020」をサポートするデザインをいくつか制作されたようですね。これはどのような企画だったのですか?

「Artist support pledge 2020」は、新型コロナウイルスによるロックダウン下で生まれました。イギリスのアーティスト、マシュー・バローズが発案したアイデアで、200ポンド以下の絵画を『Instagram』に投稿し、ハッシュタグ「#artistsupportpledge」をつけて販売するというものです。もし誰かが1000ポンドの売り上げを達成すると、同じくハッシュタグを付けている他のアーティストの作品を購入します。困難な時期にアーティストを支える素晴らしいアイデアでした。

ー 新型コロナウイルスによるステイホームで人生観は変わりましたか?

「Artist support pledge 2020」は、新型コロナウイルスによるロックダウン下で生まれました。イギリスのアーティスト、マシュー・バローズが発案したアイデアで、200ポンド以下の絵画を『Instagram』に投稿し、ハッシュタグ「#artistsupportpledge」をつけて販売するというものです。もし誰かが1000ポンドの売り上げを達成すると、同じくハッシュタグを付けている他のアーティストの作品を購入します。困難な時期にアーティストを支える素晴らしいアイデアでした。

ー 新型コロナウイルスによるステイホームで人生観は変わりましたか?

パンデミックの間は、子どもたちと過ごしながら家で仕事を続けられるように家の最上階にスタジオを移しました。家に居るのは好きなんです。好きなときに仕事ができる上、いつでも子どもたちに囲まれて過ごせますから。海岸沿いに住んでいるので、海辺まで散歩して海を眺めると少し自由になれます。私はこれまで常に画家として生きてきましたが、パンデミックをきっかけに自分のしたいことに改めて向き合いました。クリエイティブな生活の中で、絵の位置付けがより一層大きなものとなりましたね。

ー 今気になっていること、関心を持っていることはありますか?

ロックダウンが緩和されてきたので、今年中にいくつかのギャラリーで個展ができたらと思っています。小売店とのコラボレーションで、私の絵画のアートプリントを販売する計画も進んでいます。