Dupenny|デュペニー
イラストをベースとしたラブリーなデザインで人々を魅了するイギリスのブランド《Dupenny》。一度見たら目に焼き付いて離れないそのデザインは、150年以上の歴史があるロンドンのケンジントンにある国立博物館にコレクションの一つとして所蔵されるほか、名だたるアーティストやデザイナーらの作品とともに美術館に展示されるなど、芸術の分野においても高く評価されています。
立ち上げたのは、元歌手でアーティストのエミリー・デュペン。彼女が得意とする女性のイラストには、1920年〜1950年代のファッションやメイク、ヘアスタイルなどのビンテージな世界観が色濃く表現されています。エミリー自身もイラストに登場するようなラブリーでキュートな女性。過去、キャバレーへの出演やピンナップモデルなど表現者として活動していた時期もあり、デザインにはそういった経験とリンクするちょっぴりセクシーな要素も散りばめられています。
2020年の秋、日本初となるインタビューに快く答えてくれたエミリー。デザインのルーツや前向きなエネルギーにあふれる彼女の価値観を、これまでに制作された壁紙のデザインとともにご紹介します。本書のために描かれた3つのオリジナルイラストもお見逃しなく!
キュートなイラストのデザインが特徴的な《Dupenny》。ブランドを立ち上げたエミリー・デュペンのルーツを語るうえで外せないのが、子どもの頃から打ち込んだ音楽のこと。音楽からイラスト、その軌跡はどのように描かれたのでしょうか。
育った環境の中で自然と音楽に親しみ、その楽しさに魅了されていきました。そして、次第に未来を見据えた活動に専念するようになります。ところが、そんな彼女の人生を大きく変える出来事が起こります。
「10代の頃、毎週土曜日は演劇学校で歌や踊りを学んでいたの。 両親や学校の先生たちが私の音楽活動にとても協力的で、オーディションのために何日も学校を休ませてくれたりしたわ。有名なアーティストやプロデューサーに囲まれて、ロンドンにあるトップレベルのスタジオで一日中レコーディング。でも17歳の時、もう少しでマネジメント契約を交わすというタイミングで突然耳が聞こえなくなり始めたの」
周りのサポートを得ながら順調に歌で道を切り開こうとしていた10代の少女にとって、あまりに酷な出来事です。
「歌で生きていくと決めていたのに耳が聞こえなくなって、世界がひっくり返るほどショックだった。人工内耳でデジタル処理された音を再び聞くことができたけれど、やっぱり自然に聞こえる音とは違うわ。難聴が悪化するにつれ歌の音程がとれなくなっていったの。どれほど悪くなるか分からなかったから音楽大学への入学を延期してしばらく様子を見ながら、気を紛らわせるためにアートの勉強を始めたわ。残念なことにその後さらに聴力が悪化して、音楽への道はあきらめるしかなかった。
音楽ができないという現実を振り払うようにイラストの道に没頭したわ。自分をかわいそうだと思う代わりに、無理やりアートに目を向けたの。実は、はじめはインテリアの勉強をしようと思っていたんだけれど、それだけでは飽きるだろうからイラストに挑戦してみたらどうかってある先生にすすめられて。これがきっかけでイラストとインテリア、この2つを軸とする現在のパフォーマンスにつながったことを思うと感慨深いわね」
音楽への道を閉ざされ、その思いを振り切るように飛び込んだ新たな世界。これが結果的に彼女の新たな才能を開花させる舞台となりました。また、音楽への情熱も途絶えることなく《Dupenny》の事業が軌道に乗り拡大する今も、次のステップを模索しています。
「ギタリストの夫が、発声の訓練をサポートして自信を取り戻せるように後押ししてくれているの。すぐにでも『YouTube』の撮影を始めて、いつかライブを配信できるようになりたいわ。歌が恋しくてしょうがないの。ビリー・ホリデイやニーナ・シモンの歌のような、昔ながらのジャズを歌うのが大好き」
ありのままの自分を受け入れ、今の自分にできることを模索し前に進むエミリーの柔軟な強さがうかがえます。
そんな彼女のミッションは「世界を笑顔にすること」。デザインのテーマは「レトロ」「ラブリー」「ユーモア」「モノクロ」。前向きなエネルギーとともに誕生したデザインの数々、そのルーツをたどりましょう。